とちの木の実

俳誌に連載中のエッセーと書評

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牛飼い詩人の俳句集

牛飼い詩人として知られる鈴木牛後さんの第一句集です。表紙も面白い。

北海道の自然の中で牛を飼って暮らす日々の中から生まれた句はみな輝いています。

 

 牛死せり片目は蒲公英に触れて

  犢ほどの根明ありけり牛魂碑

(根明とは、深い雪が木の幹などの周りから溶けて穴になっていること、のようです。)

 

 花李匂ふ牛には牛の径

 牛追って我の残りし秋夕焼

 

等等印象的な牛の句がどのページもさながら牛舎に並ぶ牛たちの如くひしめいています。牛の世話をする日々の中から生まれた句は、もちろん興味深いですし、雄大な四季の自然の移ろいと相まって本当にうつくしい。

しかし、そればかりではありません。この方は、本当に目がいい。視力というのではなく、質感の捉え方が細やかで且つ するどい。

 

 いちまいの葉の入りてより秋の水

これほど涼しく澄んだ水は、見たことがないような気がします。

 

白蝶の白をうしなふとき死せり

 

白が汚れたから、というより白が極まって、色を超出した感じですね。

こういう感覚の鋭さ、語感のよろしさがあってこその完成度だとおもいました。

 

霧を出て霧へ入りゆく牧の牛