冒頭の中原道夫「銀化」主催の序文が、懇切にしてカマラドゥリー溢れ、且つ長文である。読み終わるともうそれ上加えることはない感じ。というより、その視線から離れられなくなてしまう。
たとえば、「食に関する句が頻出することに注目していた」とあったせいか、ついつい食べ物の句に目がいく。そして
ダイキリのよく出る晩の守宮かな
の句も、たしかに「守宮のよく出る晩のダイキリ」なら普通だけど、ダイキリのほうがよく出るのは、健啖家の証しであろう、などと思ってしまう。
永井荷風の愛した洋食屋とか、寄せの風景とか、古き良き東京の雰囲気も懐かしい。そういえば、かつての江戸の文人達のような洒落たおかしみのある句もある。
夏足袋や毎度ばかばかしき噺
この夏足袋,利いてますね。
鰥にも荒地野菊の道はある
のように、寂しさのある境涯を詠んでも重くれず瀟洒である。つまり粋なのだ。
粋といえば、装丁がまたスタイリッシュだ。
やや縦長の黒っぽい表紙に黒い帯。カバーの下のフランスの再生紙みたいな表紙、題字のデザイン、,どれを取っても隙がない。
私も、こんなお洒落な句集出してみたい、と思った。
好きな句をいくつかあ書き出しておこう。
ゴーグルに当たるものあり冬銀河
夜桜や掻き合はすべき襟もなく
虫売りの仄暗き夢みせにけり
きっちりと夏野畳みて背嚢に
みづかきのいくらか有る手胡瓜揉
冬ざれに値段を付くる仕事かな