とちの木の実

俳誌に連載中のエッセーと書評

Muse'e句会三月

句会の続きです。2点句はたくさんありました。 たゆたいつゆらぎつ昇る月朧 松田 緩やかに上ってくる月はいかにも春の月らしいおもむきです。 細かいことを言うと昇ってくる動作の主体は月なので、その上になお朧でもある、と付け加えられるのが、文法的に…

三月のMuse'e句会

オガタマの花 例年なら桜も辛夷も咲いているはずなのに今年は寒いのかまだほころびそうな気配すらない。それなのにオガタマだけは純白の花をつけてくれました。うれしい。 さて古九谷美術館のカフェ「茶房古九谷」での句会も四度目となりました。当季の句三…

句集「ジントニックをもう一杯」

冒頭の中原道夫「銀化」主催の序文が、懇切にしてカマラドゥリー溢れ、且つ長文である。読み終わるともうそれ上加えることはない感じ。というより、その視線から離れられなくなてしまう。 たとえば、「食に関する句が頻出することに注目していた」とあったせ…

九谷焼美術館Mus'ee句会

染付雲中十二支図大皿 今日は、カフェの展示品の搬入の日でもあったので、ようやく焚くことのできた染付などをついでに届けました。さて、句会です。 今年は能登半島の大地震もありましたので、さすがに関連の句も多かったです。立春も間近になりましたので…

Muse'e句会

九谷焼美術館カフェで句会 こちらのカフェの台湾茶はとてもおいしいんですけど。今日はその上特別のお菓子まで用意していただいて、句会です。 美術館の方は展示替えで休館中なので、二階のカフェがオープンしていることに気づかない方も多いのでしょう。店…

白山山麓にて十一月句会

今月は、山麓の紅葉も美しい白山市ギャラリー・ガレリアにて句会。 とてもすてきなギャラリーでした。オーナーの目の行き届いた展示品はどれもかなりエッジが効いていてしかも上品。みんな欲しくなってしまいます。 ランチもその後のデザートも美味でした。…

金沢句会十月

赤絵の恋しくなるこの頃 お湯呑み御愛用いただけているようで、嬉しい。 今回はやや人数が少なめでしたので、手持ちの秋の句好きなだけ投句していただきました。ほぼどの句も、どなたかが選んで、ばらけた感じ?まずは2点句 花木槿雲は傍片へゆくなれば お…

茶房古九谷句会

九谷焼美術館の二階のカフェ、「茶房古九谷」で初句会です。紅茶や台湾茶と、お菓子の銘「花野」。きれい。 はじめての句会なので、何かとドギマギしましたが楽しかった。出席者は六人で三句投句五句選ですから、高得点が期待できる…かな。 最高点は4点でし…

岩上明美句集「春北斗」

学生時代から俳句に親しまれ、俳誌「藍生」で、ご活躍なさっていた岩上明美さんの初句集です。長いキャリアの中で作ってこられた句句を一冊にまとめられたのですから、よほどたくさんの句をお捨てになったことでしょう。読みごたえがありました。集中の句、…

水無月の句会Ⅱ

輝く緑 金沢句会、その他の得点句 消えてゆくもの閉じ込めて香水瓶 くの一 きんいろの香水瓶に充ち渡る おもおもしい静謐。だが香りの本質は その内側にではなくむしろ 外側にこそくゆり立つ 中井英夫「香りへの旅」 一瓶の薔薇香水を作るために何トンの生花…

水無月の句会

卯辰山展望台から金沢を見下ろす 金沢での句会、当季雑詠五句投句五句選です。 特に仮名遣いは指定しておりません。歴史的仮名遣いは風情があると思いますが、いまだ自信がないもので…おはずかしい。 まずは高得点句から。三点句 人知れず生きて誇らず蝸牛 …

出井孝子句集「八月」

八月の光 暑さの最中とはいえ、八月になると不思議に秋の気配が、感じられるようになる。日は確かに短くなっている。そして今年もまた原爆の日があり八月十五日がやってくる。 八月の石にすがりてさち多き蝶ぞ、いま、息たゆる。わが運命を知りしのち、たれ…

紅葉を描いてほしいという注文があった。名人上手といわれる画家たちの、さんざん描いてきた題材である。おそろしい。 葛飾北斎が鶏の足に色を付けて紙の上を走らせたという有名な逸話も、あまりにも数多くの銘品のある中で、「さあ、おまえならどうする、」…

須田菁華と魯山人  菁華の馬魯山人の馬

須田菁華と魯山人 魯山人の馬、菁華の馬 須田菁華窯で働き始めたのはもう三十年も昔のことになる。その頃は先代もお元気で、細い通りに面した磨りガラスの窓の前の机に身をかがめて、軽やかに筆を動かしながら、何くれとなく、思い出や身の回りのことなどお…

三島広志句集「天職」」

寒昴よき終焉を見届けて 三島広志 寒昴よき終焉を見届けて 帯に書いてありますが、作者は治療家としてご活躍中の方。御仕事柄、人の終焉に立ち会われることも少なくないのでしょう。その後に見上げる冬空の星の煌きに、心打たれます。 人間というものを見つ…

緑の香り

里山の緑 一雨ごとに緑の諧調が変化して、山全体の盛り上がってくるような新緑の五月。林道を歩くと何の花とも知れず香る。 もうすこしすると朴の花が咲き出して天上の香りを降らしてくれる。香りを吸いながら、世界の果てまでも歩いていきたくなるような甘…

古九谷動物園 九谷焼美術館報「古九谷つれづれ」より

虎の子 小皿の中の動物たち 虎の子 公園の木漏れ日を抜けて、九谷焼美術館に入る。エントランスの傍らに、マリオ・ベリーニの椅子があるので、ちょっと座ってみる。中庭に面した窓辺にはウエグナーのYチェアが並んで光を浴びている。そして資料室にはスーパ…

器で遊ぶ 九谷焼美術館会報「ふかむらさき」より

煎茶の器で遊んでみれば 祖母は煎茶が好きだったという。記憶の中では、いつも眉をひそめた、怖い印象しかないのだが、若かったころは、御道具も中国のものや、出身地の萩焼やら集めていたそうだ。それらを戦災でほぼ失って、残ったものも”食べてしまった”、…

恋の猫 俳誌「とちの木」連載エッセー

今週のお題「ねこ」 猫の日なので 今、家に猫がいない。物心がついてからこの方、猫を抱いて寝ていたから、このところの猫無し生活は、なんとも、奇妙に静かだ。。 猫がしていたように、窓によって日向ぼっこしていると、ベランダを見覚えのあるトラ猫が通る…

牛飼い詩人の俳句集 牛飼い詩人として知られる鈴木牛後さんの第一句集です。表紙も面白い。 北海道の自然の中で牛を飼って暮らす日々の中から生まれた句はみな輝いています。 牛死せり片目は蒲公英に触れて 犢ほどの根明ありけり牛魂碑 (根明とは、深い雪が…

青に触れたくて

染付とか、拙句集とか 今までに見た一番深い青は何だろう。 遠い日に、山の上で見た五月の空?ふいにいなくなってしまった白猫の瞳?三好達治の詩にも詠われた露草の花の色?その終聯に「はるかなるものみな青し」と、あるように、つゆ草の青は遠い色をして…

滝川直弘句集「木耳」 句集名に感じ入ってしまった。これと比べたらロブーグリエの「消しゴム」ですら、ひんやりと徒労感のただよう抒情の影が揺曳している、といえるでしょう。内包する世界への手がかりの見当たらない、絶壁の如く立ちはだかる「木耳」の存…

蛇 石川県の一億三千年まえの地層から、蛇の祖先の化石が発見されたそうです。それには小さな手足があり、当然、そのための遺伝子があります。手足の進化の遺伝情報因子は、魚の鰭から、昆虫類,哺乳類、そして私達まで、ちゃんと保存されています。 しかし…

末期の曲 二月の光は、まだ春の生命力の猥雑さを知らないだけ、透き通ってみえる。その中を、横に流れ、吹きあがり、風花は、落ちてゆくのが楽しいかのよう降りしきる。 このところ、終活の一環として、死ぬときに聞きたい音楽を編集している。特に詳しいわ…

句集「青花帖」に

「青花帖」に御批評を賜りましたので御礼まで。「岳」は宮坂静生主宰、長野県松本市から発行されている俳誌です。一月号と五月号とにどもとりあげていただいてありがとうございます。五月号では句集縦横のコーナーに清水美智子氏の御批評をいただきました。…