とちの木の実

俳誌に連載中のエッセーと書評

2020-01-01から1年間の記事一覧

紅葉を描いてほしいという注文があった。名人上手といわれる画家たちの、さんざん描いてきた題材である。おそろしい。 葛飾北斎が鶏の足に色を付けて紙の上を走らせたという有名な逸話も、あまりにも数多くの銘品のある中で、「さあ、おまえならどうする、」…

須田菁華と魯山人  菁華の馬魯山人の馬

須田菁華と魯山人 魯山人の馬、菁華の馬 須田菁華窯で働き始めたのはもう三十年も昔のことになる。その頃は先代もお元気で、細い通りに面した磨りガラスの窓の前の机に身をかがめて、軽やかに筆を動かしながら、何くれとなく、思い出や身の回りのことなどお…

三島広志句集「天職」」

寒昴よき終焉を見届けて 三島広志 寒昴よき終焉を見届けて 帯に書いてありますが、作者は治療家としてご活躍中の方。御仕事柄、人の終焉に立ち会われることも少なくないのでしょう。その後に見上げる冬空の星の煌きに、心打たれます。 人間というものを見つ…

緑の香り

里山の緑 一雨ごとに緑の諧調が変化して、山全体の盛り上がってくるような新緑の五月。林道を歩くと何の花とも知れず香る。 もうすこしすると朴の花が咲き出して天上の香りを降らしてくれる。香りを吸いながら、世界の果てまでも歩いていきたくなるような甘…

古九谷動物園 九谷焼美術館報「古九谷つれづれ」より

虎の子 小皿の中の動物たち 虎の子 公園の木漏れ日を抜けて、九谷焼美術館に入る。エントランスの傍らに、マリオ・ベリーニの椅子があるので、ちょっと座ってみる。中庭に面した窓辺にはウエグナーのYチェアが並んで光を浴びている。そして資料室にはスーパ…

器で遊ぶ 九谷焼美術館会報「ふかむらさき」より

煎茶の器で遊んでみれば 祖母は煎茶が好きだったという。記憶の中では、いつも眉をひそめた、怖い印象しかないのだが、若かったころは、御道具も中国のものや、出身地の萩焼やら集めていたそうだ。それらを戦災でほぼ失って、残ったものも”食べてしまった”、…

恋の猫 俳誌「とちの木」連載エッセー

今週のお題「ねこ」 猫の日なので 今、家に猫がいない。物心がついてからこの方、猫を抱いて寝ていたから、このところの猫無し生活は、なんとも、奇妙に静かだ。。 猫がしていたように、窓によって日向ぼっこしていると、ベランダを見覚えのあるトラ猫が通る…

牛飼い詩人の俳句集 牛飼い詩人として知られる鈴木牛後さんの第一句集です。表紙も面白い。 北海道の自然の中で牛を飼って暮らす日々の中から生まれた句はみな輝いています。 牛死せり片目は蒲公英に触れて 犢ほどの根明ありけり牛魂碑 (根明とは、深い雪が…

青に触れたくて

染付とか、拙句集とか 今までに見た一番深い青は何だろう。 遠い日に、山の上で見た五月の空?ふいにいなくなってしまった白猫の瞳?三好達治の詩にも詠われた露草の花の色?その終聯に「はるかなるものみな青し」と、あるように、つゆ草の青は遠い色をして…