寒昴よき終焉を見届けて
帯に書いてありますが、作者は治療家としてご活躍中の方。御仕事柄、人の終焉に立ち会われることも少なくないのでしょう。その後に見上げる冬空の星の煌きに、心打たれます。
人間というものを見つめ続けてきた方ならではの言葉は、静かで深い。
おぼろ夜の筆談嘆きもて途切れ
また一人看取りの汗を拭きて来し
しかし、句集の読後感は、重くありません。むしろ落ち着いて、澄んだ印象がのこります。
花辛夷みづうみ色に夜が明けて
作者には、ちょっと恥ずかしいかもしれないけれど、こういう抒情性が垣間見れるとほっとします。
山彦が山彦を呼ぶ十二月
童心が感じられて、ぐっときますね。
ひと日もの言はざる安堵梅雨の月
辛いことを云わねばならなかったり、あえて嘘をつかねばならなかったりする方の感慨でしょう。
私なんか一週間人と口きかないこともざらですが、妄想の途切れない凡人です。
作者は、一人、夜空を見上げることが多くていらっしゃるようですね。星の句が多い。
桃啜る満天にかの星みつつ
「夜の桃」といえば西東三鬼を思い出しますが、桃啜る、は作者の星の句の中ではそこはかとなくエロチックかもしれません。
句集を読み進むうち、不思議に静かな気持ちになりました。星々の静寂を聴く思いがしました。
遠山櫻治らぬ人に触れてきし
作者の御職業をおもえば、沈痛な句かもしれませんが、ひとは皆、死に至る病を生きている。それを知っているからこそ触れ合う。そして時に,遥かなものへ目をやりたくなる。そのまなざしの先にほのぼのと山桜の見える世界は、美しい。