とちの木の実

俳誌に連載中のエッセーと書評

Muse'e句会

九谷焼美術館カフェで句会

こちらのカフェの台湾茶はとてもおいしいんですけど。今日はその上特別のお菓子まで用意していただいて、句会です。

美術館の方は展示替えで休館中なので、二階のカフェがオープンしていることに気づかない方も多いのでしょう。店内は静かでした。とはいうものの、感想など言い合っているうちに盛り上がって、句会のテーブルの周りは、ちょっとうるさかったかも。

 お茶を楽しみに立ち寄られた方々には、ご迷惑だったかもしれないと、遅ればせに反省しました。

当季の句、三句投句、五句選です。今回は「短詩形は初めて」というかたもいらっしゃいました。

とりあえず高得点句から順に行きましょうか。八人参加で五点句です

 

傍らに犬の寝息や小夜時雨  井上

 

「小夜時雨」という古風な響きの季語と室内で飼っているのですから多分小型犬の、暖かな寝息の音のとりあわせ。外の時雨の音と寝息と、かすかな音に耳を澄ますやすらぎのじかんですね。誰しもが、ほっとする取り合わせでしょう。

 

 天蓋に星あふれ柚に種こぼれ  橋本

 

夜になってから句を考えるので、夜の句が多くなってしまうんです。次四点句

 

黎明のテラコッタ径濡れ落ち葉  松田

 

黎明の茜色の光の中、テラコッタの色、s落ち葉の色が鮮やかに目に浮かびます。色彩感ゆたかで絵画的な一句。

三点句まいりましょう。

 

短日の街とぼとぼと孤影我  小林

 

御能に詳しく、御著書もお持ちの作者は、御能の名人の「離見の見」のごとく自分自身の姿を幻視なさったのだそうです。「孤影われ」という漢詩的表現もかっこいい。

しかし、ここまでハイブロウに格調のある表現になると中ほどの「とぼとぼと」がやや弱い。すぐには思いつきませんが、たとえば「短日の流にあるごとし孤影我」と、隠岐に配流の後鳥羽の院みたいなのとか。「短日の八衢に在り孤影我」とか。

 

老い一つ置いてきたらし冬紅葉  井上

 

冬紅葉の燃え立つような色彩の中に、老いという何かを置いてきた。散り行く前の一瞬の輝きかもしれないけれど、いわゆる老境というと思い浮かべるような、衰えとか侘しさをかこつのではなく,颯爽と明るく冬の林ぬけてゆく。かっこいい。

 

桃紅の一筆の墨冬座敷  くの一

 

作者は篠田桃紅氏とお知り合いとのこと。作品を冬座敷にかざっていらっしゃるのですね。ステキですね。そういえばレオノール・フィニーや藤田嗣治もお宅で拝見しました。

桃紅の作品は軸装はもちろん、モダンな額装もありますね。どんな字だったのか、書いてもよかったかも。

 

冬日射し花紺青のやわらかさ   東出

 

花紺青は松山窯(嘉永年間に大聖寺藩が加賀市松山町に起こし、青手の再興を試みた御用窯です)の独特の明るい青色を花紺青と呼ぶそうです。九谷焼美術館で展覧会の行われているところでした。

今まさに、この時この場所でなければ生まれなかった句ですね。

 

霰降る休眠中の登り窯  下口

 

登り窯は、焚くのに松の木がたくさんいるので、大変なんですよね。

なかなか使われなくなって、休眠中の登り窯にひとしきり降りしきる霰。なかなかの取り合わせです。

 

他にもたくさん面白い句があったのですけど、長くなりましたのでこの辺りで一応切り上げることにします。