とちの木の実

俳誌に連載中のエッセーと書評

水無月の句会

卯辰山展望台から金沢を見下ろす

金沢での句会、当季雑詠五句投句五句選です。

特に仮名遣いは指定しておりません。歴史的仮名遣いは風情があると思いますが、いまだ自信がないもので…おはずかしい。

まずは高得点句から。三点句

 人知れず生きて誇らず蝸牛  小林

 

 人知れず、つつましく、おごらず生きてゆく。一隅を照らす存在として。

好ましい姿です。蝸牛という、小さな静かな生き物も、そういう心境の象徴として良く似合っています。

 「誇らず」に注目です。作者は、そういう生き方にも、自分自身にも、しっかりと自負を持っていらっしゃるんです。だからこそ、あえて、誇ることもない。

なんとなく流されているわけではないのです。

 こうしてみると蝸牛も、ひ弱そうですが、自分の核を守る殻と、そして、小さな角ももっているんですね。ただ名もなくか弱い存在なのではなく、人知れず生きることへの確固たる自負の表明の句、と読みました。

 

山椒魚吐息漏れ聞く文庫本  井上

 

全員が井伏鱒二の「山椒魚」だな、とわかっていたので問題なかったのですけれど、知らなければ「?」な句かもしれませんね。そして「漏れ聞く」も文法的にどうなんでしょう。「漏れ聞こゆ」ということなんでしょう。字余りを避けたい気持ちはわかりますが。

 実は、この場で「こうしたら良いのじゃない」と大変うまく添削なさった方がいらしたのですが、それを書き落してしまって、仕方なく原句を載せました。すみません。

 ふるびた文庫本から漏れる山椒魚の吐息を聞く!おもしろい発想です。