とちの木の実

俳誌に連載中のエッセーと書評

水無月の句会Ⅱ

輝く緑

金沢句会、その他の得点句

 

消えてゆくもの閉じ込めて香水瓶  くの一

 

 きんいろの香水瓶に充ち渡る

 おもおもしい静謐。だが香りの本質は

 その内側にではなくむしろ

 外側にこそくゆり立つ     中井英夫「香りへの旅」

 

一瓶の薔薇香水を作るために何トンの生花が摘み取られることか。香りの神殿の奥処には、魔が潜んでいる。

冷ややかなガラス瓶に閉じ込めても香りは、刻刻発ってゆく。すべては消えゆく。

「時よ止まれ、お前はあまりに美しい」と言ったゲーテのように、だれしも永遠にとどまってほしい美しい瞬間はあります。むなしいと知っていながら願わずにいられないそんな思いの象徴のような煌めく香水瓶。

 

本堂の扉全開僧昼寝    井上

 

本堂の全開の扉。風が通って涼しそうです。昼寝には最高でしょうね、天国の蓮池の夢が見られそうです。実際に目にしたからこその実感のこもった明快明確で気分の良い一句。

 

白馬の残雪怪し暁闇に  加藤

 

信州、白馬の周辺を実際にご旅行なさっての句と、伺いました。

まだ暗い暁闇の天空に仄かに浮かぶ残雪の峰峰。そこに、ただ美しいという以外の妖しさを感じ取った。

かつて山々は神々の住むところでした。現代人の心の奥底にもそういう古代的な畏れの甦るときがある。ことに昼と夜のあわいの時間、あさや夕べは神託の降りる時間です。

心の深淵にうごめく何かを感じ取ることが出来る感性は貴重だと思います。